「自然発生型」応援が好きになったキッカケ

スポーツの応援スタイルについて、大ざっぱにいえば、
「コアサポ型」「自然発生型」分類できる
(byハトトカ氏の考え)
コアサポ型→応援をリードする人がいて、みんながそれに合わせて応援する型
自然発生型→応援をリードする人はいない。誰かが勝手に応援を始めて、みんなが自然と応援する型
おれは、数百試合のスポーツを観戦しているから、どっちの応援も経験している。

「ファンの応援が1番凄かった試合は?」と聞かれることもあるが、現地観戦した中で1番凄かった試合は、
2007年8月22日 夏の甲子園決勝 広陵vs佐賀北である。
両チームの戦力を分析すると、
広陵は、「言わずと知れた名門」でスタメン9人のうち、将来5人がプロ入りする。
しかも、ピッチャーの野村は明大を経て、ドラフト1位で広島に入団
キャッチャーの小林も大学社会人を経て、ドラフト1位で讀賣に入団
一方の佐賀北「ふつうの公立高校」で、将来プロ入りする選手はいない。

それどころか、1年前の成績は、「地区予選1回戦負け」だった。
これだけの戦力差が示すとおり、広陵が試合を優位に進める。
広陵は、2回表に2点先制する。その後もチャンスを作るも、佐賀北の素晴らしい内野守備があり追加点は奪えず。
広陵の先発投手 野村は完璧なピッチング。許したヒットは、3回の1本だけだ。
特に6回裏 佐賀北の攻撃は1番から始まる好打順だったのに、三者三振
直後の7回表に、広陵はピッチャー野村のタイムリーで2点追加
4-0で広陵がリード。
報道記者は「広陵優勝」の原稿を作成し始める。
多くの記者が、記事を書き上げた時点で、佐賀北に残された反撃のチャンスはあと2イニング
8回裏 佐賀北の攻撃は、先頭打者が三振に倒れる。
広陵は、優勝まであとアウト5つ

しかし、次打者の久保が、ボテボテの当たりながら、ヒットを放つ。
3回以来のランナーが出た。
ここで、佐賀北は9番馬場崎に代打新川を送る。
ファーストスイングで、一・二塁間を真っ二つに抜くヒットを放つ。
ここの時点で、甲子園球場の雰囲気が変わり、「ひょっとしたら」の空気が生まれ始める。
1番辻の打席から、スタンドの様子が変わった。応援を強制している人はいないのに。
・1塁アルプススタンド以外は、手拍子で応援する人が、どんどん多くなる。
・ボールカウントが1つ増えるだけで、大声援が起こる。

カウントが2ストライク3ボールになった時点で、ピッチャー野村がタイムをかけて、間を置いた。

おれは、この時点で「逆転するかも」との思いが頭をよぎった。
1球ファウルで粘った後、フォアボールで出塁。1アウト満塁。
このとき、「甲子園の魔物」が姿を現した。
おれはレフトスタンドで観戦していたが、3塁アルプス応援席の鳴り物がよく聞こえないほど「自然発生型」の応援が凄かった。甲子園球場は「異様な空気」を生んでいた。

2番井出が打席に入る。1回もバットを振らずに、カウントは、1ストライク3ボール。
次の球もボールを判定され、押し出し。佐賀北が3点差に詰め寄る。
この打席の判定については、誤審という風潮がある。
しかし捕手の小林は、低めのボールを捕るとき、ミットを10cm以上は動かしている(YouTube等の動画でも確認できる)。
野村の投球にキレが無くなっていた。
そうでなければ、代打がファーストスイングで、クリーンヒットを放つことはない。

この事実に、気が付いていなかった。選手も監督も。
広陵サイドが冷静な判断をできないほど、「甲子園の魔物」のパワーは凄まじかった。
なお、1アウト満塁で迎える打者は3番副島。
甲子園に出場するまで、公式戦でホームランを打ったことがない。
カウント1ストライク1ボールからの3球目。
高めに浮いたスライダーを強振。
打球は、レフトスタンドの中に消えた。
逆転満塁ホームラン。
甲子園球場全体が狂喜乱舞。
おれの座席の横の通路を係員が駆け下りる。ホームランボールを回収するためだ。

そんなことを気に留めないほど、レフトスタンドは、ハイタッチや抱擁の嵐だった。

結局、この後スコアは動かずに試合終了。佐賀北の大逆転優勝で幕を閉じた。
広陵vs佐賀北のスコア

今になって思い出しても、当時のスタンドは異様だった。
スター選手がいない甲子園で「野球を知っている」ファンが「一方のチーム」に肩入れした結果、劇的な結末を導いた。
この日以降も、数百試合のスポーツを観戦しているが、当時の雰囲気を上回る場面に遭遇したことはない。
この試合がキッカケとなり、「コアサポ型」よりも「自然発生型」の応援が好きになった。