平成29年6月21日 午後4時
横殴りの雨の中、おれは日立台ビジターゲート待機列の最前列にいた。「列」といっても、前も後ろも誰もいない。傍から見れば、寂しい光景だろう。
ほどなくして、浦安唯一のコアサポが到着。それでも、まだ2人しか並んでいない。
16時半になる少し前、ビジター待機列のスペースにバスが1台入って来た。最初は「応援バスが早めに到着したのかな?」と思ったが、少し様子が違う。
…
浦安の選手バスではないか!
ビジター運営の関係者は、一瞬パニックになっていた。直後、警備員の指示の元、バスはその場でUターンして、柏の葉方面に正門へ向かっていった。そのとき、2人の野郎が「ブリオベッカ!」コールをしたのは、言うまでもない。
想定外の出来事を経て、17時に開門となる。
数十人のレイソルサポがキビキビと弾幕を張る中、ビジター自由席にいる観客は、おれ含め5人だけ。運営関係者のほうが多かったはず。弾幕の到着が遅れたこともあり、ビジター自由席の真ん中で、まったりしていた。
17時半ころ、ようやく弾幕が到着して、せかせかと掲出する。
この頃から、浦安側の観客はどんどん増える。オーロラビジョンに、ブリオベッカのロゴが映る。
気が付いたら、おれは夢心地になっていた。ブリオベッカのホームゲームは、浦安市内で開催できないこともあり、1,000人入ったことすらない。それが、日立台で数千人の観客がいる中、試合ができる。
本当に幸せな環境だ。
18時10分になり、GKのアップがピッチ内で始まる。「すぐ目の前に選手がいる」日立台ゴール裏特有の「迫力」に興奮しっぱなしだった。その後、フィールドプレーヤーのアップも始まる。選手の表情は「スイッチが入っている」ように思え、その期待は高まる。
シュート練習が始まると、ゴールマウスを外れたボールが、どんどん応援席に飛び込んでくる。ほとんどの大人は怖がっていたけど、ほとんどの子どもたちは、ボールが来ると喜んでいた。さすが。
練習の最中に、両チームのスタメンが発表される。浦安は言うまでもなく、ベストメンバー。
一方の柏レイソル。リーグ戦のスタメンではないはずなのに、
「ブラジルW杯に出場した、ユンソギョン」
「ボランチは細貝&栗澤」
「ロンドン五輪で大活躍した大津」
「昨年のJ1リーグでハットトリックを決めたディエゴ&ロペス」
…4部リーグのJFL最下位相手にこのメンバー。第三者から見ると、「オーバーキル」と思われるような豪華さ。予想していたとはいえ、「レイソルすごい」
選手のアップも終了し、最前列の前にある通路は、人が多く通るようになる。おれが気が付いたときは、会釈をしたり「こんにちは」と声を掛けたりした。
そんなことをしているうちに、選手入場を迎える。後援会の方が考えた応援歌を歌い終えた後、通路を1人の若者が通る。どこかで見た顔と思ったが、すれ違ったとき「ガチムチの体格」を見て声を掛けた。
昨年までブリオベッカ浦安のDFだった、高井青(たかいじょう)選手だ。2年前昇格したとき、関東リーグ後期の8連勝に貢献。現在は、ドイツ5部でプレーしている。キックオフ直前だったので、あいさつ程度しか話はできなかった。
その頃、ピッチでは記念撮影が終わっていた。選手たちは軽いボール回しをして、円陣を組み、その輪が解ける。GK大野が、おれのすぐ目の前にいる。ゴールネットの真後ろ、最前列。かつての「みゃ長ポジション」に立っているおれのテンションが、最高潮に達する。
いよいよ、キックオフ。
当然のことながら、レイソルが優勢に試合を進める。前線の推進力は目を見張るものがあった。しかし、おれがひるむ訳にはいかない。普段は「楽しく応援しましょう!」と浦安ファンに声を掛けているのだが(今日の試合前も)、
とにかく、浦安の選手を応援することに集中。周囲から「こえー」とか「ぎゃー」といった声も聞こえたが、8m先に浦安のキーパーがいる。おれは、とにかく、「大野いいぞ!」とか「今日は当たっているぞ!」と声を張り上げた。周りは、少し引いたかもしれないけど
浦安がシュートまで持っていくシーンもあったが、柏の猛攻は続く。バーやポストに助けられたシーンもあったが、浦安は「一体感を持った守備」ができているように感じた。矢部は「明神智和」に見えるくらいボール奪取を繰り返し、笠松&富塚のCBは必死に体を張った守備をしていた。特に、No.17富塚は「今年の開幕戦、サイドハーフで先発していた」ことを、ほとんどのレイソルサポは信じられないだろう。
他の選手もすごい気迫だった。秋葉&田中貴大は上下に走りまくり。上松は攻撃と守備のリンク役をこなす。南部&坂谷は守備に追われつつ、ボールを保持すれば、前に運べていた。清水と俊哉様は、前線で必死にプレスをかけ、ボールがくれば必死にキープしていた。
とはいっても、レイソルは何枚も上手。テクニックだけでなく、フィジカルや体の使い方…
セットプレーのピンチは幾度も訪れたが、大野を中心に守り切る。
浦安は、前半30分すぎにシュートチャンスがあったように思えたが、アタッキングゾーンでボールを回してしまい、応援席は少しガッカリする。それでも、子どもたちは落ち込まずに、声援を送る。
時間の経つのが長く感じた。それでも、前半は何とかスコアレスで折り返す。
ハーフタイムの応援席は「安堵感」があるように思えた。おれは、浦安応援席に来ていた他チームのサポと少し話をする。その方には、「選手を励ますことに集中したけど、やっぱり柏の攻撃陣の迫力は凄い」と本音を言った。
勝負の後半。
今度は、柏のGK桐畑が目の前のゴールに立ちはだかる。桐畑が来たとき、浦安ファン&子どもたちは「ほとんど無視」。浦安の選手を応援することに集中。
後半が始まっても、展開は変わらない。浦安の運動量は落ちていないように見えた。明らかに、リーグ戦よりも走っているのだが、「柏レイソル」という素晴らしい相手がいることで、モチベーションが異様に高いのだろう。
集中して守っているように見えたのだが、後半10分すぎ、柏のハモンロペスが先制点を挙げる。ほとんど個人技で、浦安は失点してしまった。
それでも応援席のテンションは落ちない。むしろ「何が何でも1点取ろうとして」テンションは上がった。けれど、コアサポやおれは、スタミナ切れの兆候が…いつにない応援をして、バテ始めていた。
そんなときでも、応援席には子どもたちがいる。コアサポに代わって、子どもたち自ら「ぶりーおべっか!」とコールを始めることが多くなる。いつものことだけど、「子どもたちがコールリーダー」という時間帯もあった。
2枚目の交代で、丸山が投入されたころから、メインスタンドやバックスタンドにいる浦安ファンの手拍子&コールが大きくなる。それに呼応するがごとく、浦安はPAまで侵入するチャンスが増える。選手たちはバテ始めているはずなのに。ファンの声量は「めちゃくちゃ」大きくなる。それでも、決定的なシュートは打てない。
試合は、オープンな展開になり始め、選手たちは最後の力を、振り絞り必死に走る。ピンチもあったが、大野がナイスセーブを魅せる。2点目は取らせない迫力ある守備から、柏のDFラインまでボールを運べるようになる。
最後の交代から、その流れは顕著になる。得点の匂いも、少しある。子どもたちを始め、浦安応援席のテンションは、ぐんぐん上昇。PA内でシュートを打つチャンスもあったが、ゴールが奪えない。時間の進むのが、異様に早く感じる。
後半ロスタイム直前、浦安のDFラインでファイトし続けていた笠松に、2枚目のイエローカードが提示される。退場…それでも、選手を信じて応援は続いた。
ピッチ内から、何とかしようという気迫は感じた。けれど、その執念及ばす試合終了。0-1でブリオベッカ浦安は敗れた。
おれは、悔しい気持ちだった。それでも、子どもたちを始め「形ある応援」はできたかな、とも感じた(自惚れかもしれないけど)。
選手たちがあいさつに来てくれる。悔しそうなオーラもあったけど、やり切った表情をしていた。浦安ファンから選手たちに、励ます声が掛けられた。子どもたちは、ピッチ上で戦った「コーチたち」に声援が飛ぶ(コーチではなく、企業で働いている選手にも)。
!
ピッチ内から、選手がいなくなり、弾幕撤収に向かう。「柏の選手はやっぱり上手い」「浦安の選手は、本当によく闘った」「やっぱり悔しい」なんて会話をしながら。
応援席から撤収しようと、階段を下りたとき、ビジター入場口付近では、驚きの光景が広がっていた。
ピッチで走り続けた選手たちが、お見送りをしていた。ホームゲーム開催ではないのに。
おれは応援のテンションが上がり続け、ロクに声を掛けられない状況だった。なので、元浦安戦士の高井選手だけにあいさつをして、日立台を後にした。
激闘から一夜明け、
おれはやっぱり悔しい。
もちろん「大きな力の差」は感じたけど、同点にできるチャンスはあった。試合終了間際、目の前のゴールネットが揺れたら、浦安応援席には、どんな歓喜が生まれただろう…
次に、日立台で浦安を応援できるのは、いつになるだろう…
そんなことを想いながら、この記事を書いている。(この想いは、ずっと消えないだろう)
浦安の子どもたちは、どういう感情を持っているのか分からないけど、
この試合を機に、もっとサッカーを上手くなりたい。憧れの選手(コーチ)をもっと応援したい。という気持ちがあれば嬉しい。
浦安市民の中から、そういう子どもたちを増やしていきたい。それができたとき、浦安でJFLを開催できるだろう。
「浦安から世界へ!」
その歩みは、始まったばかりだ。